アトピー性皮膚炎について

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は、強いかゆみのある湿疹ができて、症状が悪くなったり良くなったりを繰り返す病気です。

アレルギーの病気を持つ家族がいる場合や自身に喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギーがある人、またはアレルギーの原因となるIgE抗体をつくりやすい素因(アトピー素因)を持つ人がなりやすい傾向があります。

病態には、〈皮膚バリア機能障害〉〈アレルギー性炎症〉〈そう痒(かゆみ)〉の3つの因子が関連します。

アトピー性皮膚炎の患者さんは、皮膚のバリア機能が低下していて、皮膚にさまざまな刺激が加わることで、湿疹が生じてかゆくなります。かゆみが強いために湿疹のある皮膚を引っかいてしまい、また炎症が悪化するという悪循環(イッチ・スクラッチ・サイクル)が生まれます。

検査について
TARC

TARCはアトピー性皮膚炎の症状の重症度を測定する血液検査です。TARCとは白血球遊走作用を持つケモカインの一種で、リンパ球の1つであるTh2細胞を病変局所に引き寄せて、IgE産生や好酸球の浸潤・活性化させ、アレルギー反応を亢進させることで、アトピー性皮膚炎の症状を増悪させると考えられています。

血清中のTARC 値は、アトピー性皮膚炎の病態を反映して短期間に変動し、症状が悪化するほど著明に上昇し、軽快に伴って低下します。このためTARCの測定はアトピー性皮膚炎の重症度の評価だけでなく、治療方法・薬の選択や治療の効果判定にも有用な指標です。

ドロップスクリーン

アトピー性皮膚炎の方、特に乳児では、食物アレルゲンが悪化因子となっている場合があります。
また、乳児期以降の方ではダニやホコリ、花粉、ペットの毛などの環境アレルゲンが悪化因子となっている場合があります。
ドロップスクリーンは、指先から1滴の血液を採取するだけで、花粉、ダニ、ハウスダスト、食物など41項目のアレルゲン(アレルギーの原因物質)に対するIgE抗体量を一度に調べることができます。通常の採血検査とは異なり痛みがほとんどなく、お子様でも安心して検査が出来ます。院内検査で30分で結果が分かります。

アトピー性皮膚炎の治療の目標について

ゴールは「寛解維持」

アトピー性皮膚炎は、適切な治療により症状がコントロールされた状態が長く維持されると、症状がなくなる寛解(かんかい)が期待できる病気です。

治療の目標は、
①症状がないかあっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達・維持すること
②軽い症状は続くけれども日常生活に支障があるほど急激に悪化が起こらない状態を持続すること
です。

具体的な治療について

スキンケア

治療の基本は、保湿剤の塗布によるスキンケアで、皮膚バリア機能を回復させて、皮膚の炎症が起きにくくすることです。入浴時はやさしく汚れを落として、その後に十分な保湿をします。

外用療法
ステロイド外用薬

皮膚の炎症を抑える塗り薬です。①ストロンゲスト、②ベリーストロング、③ストロング、④ミディアム、⑤ウィークと、効果の強さによって①から⑤まで5つのランクに分類され、重症度や塗る部位で使い分けます。

プロトピック軟膏

プロトピック軟膏は、体の過剰な免疫反応をおさえることでアトピー性皮膚炎のかゆみや炎症をおさえます。

また有効成分の分子量が大きいので、皮膚のバリア機能が低下している部位状態からは吸収されますが、正常な皮膚からはほとんど吸収されない点がプロトピックの特徴です。ステロイド外用薬とは異なり、効かせたいところには効いて、症状が改善した皮膚や正常な皮膚には影響しない点も安心です。

コレクチム軟膏

コレクチム軟膏は、「JAK(ジャック)阻害剤」と呼ばれる塗り薬です。近年、アトピー性皮膚炎では、痒みや炎症を引き起こす信号を免疫細胞に送る「JAK(ジャック)/STAT(スタット)経路」と呼ばれる仕組みが関わっていることが分かってきました。
コレクチム軟膏は、JAK/STAT経路に作用してアトピー性皮膚炎の症状を改善します。

モイゼルト軟膏

モイゼルト軟膏は、PDE(ホスホジエステラーゼ)4阻害剤という、ステロイド外用剤や免疫抑制外用剤などとは異なる新しい作用をもつ塗り薬です。
PDE4は、炎症細胞において炎症を抑えるシグナルを分解し、炎症を増幅してしまう酵素で、アトピー性皮膚炎の患者さんの炎症細胞で増えていることが知られています。
モイゼルト軟膏はPDE4を阻害することで、炎症を抑制するシグナルを上昇させて、アトピー性皮膚炎の炎症とかゆみを改善します。

ブイタマークリーム

ブイタマークリームは、2024年10月に発売された、新しいアトピー性皮膚炎の塗り薬です。
ブイタマークリームは、芳香族炭化水素受容体(AhR)を活性化することにより、さまざまな遺伝子に働きかけ、皮膚の炎症を抑制してアトピー性皮膚炎の症状を改善します。
12歳以上のアトピー性皮膚炎の方が適応で、塗る回数は1日1回です。

全身療法① 生物学的製剤(注射薬)

生物学的製剤とは、バイオテクノロジー(遺伝子組換え技術や細胞培養技術)を用いて製造された薬剤で、病気を引き起こす特定の分子を標的とした薬剤です。

アトピー性皮膚炎では、主にIL(インターロイキン)-4、IL-13、IL-31などのサイトカインとよばれる物質のはたらきにより、〈皮膚バリア機能の低下〉〈アレルギー炎症〉〈かゆみ〉が引き起こされています。

このうち、デュピクセントは、IL-4とIL-13を、ミチーガはIL-31を、アドトラーザとイブグリースはIL-13をおさえる作用を持ちます。

生物学的製剤を使えるのは、既存の治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎患者さまで、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの抗炎症外用薬による適切な治療を一定期間施行しても、十分な効果が得られず、強い炎症や痒みを伴う患者さんが対象になります。

デュピクセント

デュピクセントは、2018年に承認された新しいアトピーの治療薬です。既存の内服薬・外用薬では、効果の乏しかった中等症以上のアトピー性皮膚炎の患者さんの新しい選択肢となります。デュピクセントでは「バリア機能の低下」「炎症」「かゆみ」の原因と考えられるサイトカイン(IL-4、IL-13)をピンポイントに抑える注射薬です。
2023年9月末より、デュピクセントの小児適応が承認され、生後6か月以上の既存治療で効果不十分な中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者さんに使用可能となりました。

投与スケジュール

ミチーガ

ミチーガは、アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみの原因となる物質のうち、IL-31(インターロイキン31)の働きをブロックすることによってアトピー性皮膚炎のかゆみをおさえる薬です。

従来のアトピー性皮膚炎の治療薬である炎症をおさえる塗り薬及び抗アレルギー剤を使用して、治療を一定期間行っても、かゆみが改善しない、6歳以上のアトピー性皮膚炎の患者さんが使用できます。

投与スケジュール

アドトラーザ

アドトラーザは、2023年9月に発売されたヒト抗ヒトIL-13モノクローナル抗体です。アドトラーザは、IL-13(インターロイキン13)に直接結合することで、アトピー性皮膚炎の「皮膚バリア機能」、「アレルギー炎症」および「痒み」の改善に働きます。

アドトラーザはIL-13Rα1およびIL-13Rα2(デコイ受容体)との相互作用を抑制します。

イブグリース

イブグリースは、2024年5月に発売されたヒト抗ヒトIL-13モノクローナル抗体です。

イブグリースはアドトラーザと同様、IL-13に直接結合することで、皮膚バリア機能を改善させ、炎症および痒みを抑制します。

アドトラーザは、IL-13Rα1およびIL-13Rα2(デコイ受容体)との相互作用を抑制するのに対し、イブグリースは、IL-13受容体複合体(IL-4Rα/IL-13Rα1)を介したIL-13シグナル伝達を抑制し、IL-13とIL-13Rα2(デコイ受容体)との結合は抑制しないのがアドトラーザとの違いです。

適応年齢

成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児の患者さんが対象です。

投与スケジュール

初回と2回目は、1回につき2本を2週おきに注射します。3回目以降は、1回につき1本を2週おきに注射します。
なお、患者さんの状態に応じて途中で4週おき(月1回)に変更することも可能です。

全身療法② JAK阻害薬(内服薬)

近年、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬がアトピー性皮膚炎の治療に加わりました。JAKを「ジャック」と読み、ジャック阻害薬とよばれています。

アトピー性皮膚炎では、主にIL(インターロイキン)-4、IL-13、IL-31などのサイトカインとよばれる物質のはたらきにより、〈皮膚バリア機能の低下〉〈アレルギー炎症〉〈かゆみ〉が引き起こされています。

サイトカインは細胞の表面にある受容体に結合し(❶)、JAKというタンパク質を介して細胞の中の核に信号を送ります(❷)

核の中に信号が伝わることで産生されるサイトカイン(❸)が〈皮膚バリア機能の低下〉〈アレルギー炎症〉〈かゆみ〉をさらに悪化させます。

JAK阻害薬は、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させるサイトカインの産生を抑えることで、中等症から重症のアトピー性皮膚炎の皮膚の症状やかゆみを改善させます。

JAKには、JAK1、JAK2、JAK3、チロシンキナーゼ2(TYK2)という4種類があり、いくつかの組み合わせのパターンでサイトカイン受容体と結合しています。

アトピー性皮膚炎の治療で用いるJAK阻害薬は、リンヴォック、サイバインコ、オルミエントの3種類です。

リンヴォック

リンヴォックはJAK1を阻害するお薬です。

成人及び12歳以上かつ体重30kg以上の小児に適応となり、通常15mgを1日1回服用しますが、患者さまの状態に応じて30mgに増量することが可能です。

サイバインコ

サイバインコはリンヴォックと同様、JAK1を阻害する薬剤です。

成人及び12歳以上の小児(体重制限なし)に適応となり、通常100mgを1日1回服用しますが、患者さまの状態に応じて200mgに増量することができます。

オルミエント

オルミエントはJAK1/JAK2を阻害する薬剤です。

成人は通常4mgを1日1回服用しますが、患者さまの状態に応じて2mgに減量できます。

さらに、小児への適応が追加され、
通常、2歳以上の患者さまは、体重に応じて以下の投与量を1日1回服用します。
・30kg以上: 通常、4mgとし、患者の状態に応じて2mgに減量
・30kg未満: 通常、2mgとし、患者の状態に応じて1mgに減量

ただし、オルミエントは錠剤であり、細粒やシロップはありませんので、錠剤が服用できる小児に限られます。
また治療開始前の検査(採血、胸部レントゲン)だけでなく、治療継続中も定期的な採血検査が必要です。そのため、当院では、採血可能な小学校高学年以上の小児の方を治療対象とさせていただいております。

アトピー性皮膚炎

  1. アトピー性皮膚炎について

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